ややもすれば偽善者になってしまう話。
自分は偽善者。正人じゃないと初めて知ったのは小学生の頃。
身長体重もそんなに大きくない僕はいたってノーマルな人間,のつもりです。
しかし、心のどこかで腹黒い「何か」を秘めて、
― そして大人になりました ―
そんな昨日、普段は気にもしない事柄でついつい偽善が出ちゃいます。
仕事帰りに、おもったより早い帰宅となったその日。いつも座る電車の車両へ向かうと、座席には...どうも買ったばかりの様な「品物の入った大きな白い袋」がゴロリと置いてある。
座席をそのまま知らないフリをして通り越すのか...
それとも即拾って届けるか...
「....さて、どうしようか?」
しかし、電車は直ぐに発車しそう。
そして誰もこの大きな袋を取りに来る気配が無い...
僕は、その瞬間に「腹黒い」物を秘めてしまったようです。
サッと、大きな袋のあるその席に座る自分。
そして、そそくさとその袋を座席の横隅に寄せて、自分の体で覆い隠した。
『ピ―—―ッ!』
電車の出発音が鳴る。
因みに電車での帰宅時間は約15分。
さて、この15分に僕の中の善と悪が格闘をする。
出発を確認してからの、僕の行動は何て醜い事か...。
大きなその白い袋。
袋の閉じる部分にはまだ新しい「ユニクロ」のシールが貼られている。
いや、そんなのは席に座る前からCheckしてました。だから隅にやったのです。
中には十数枚のトップス~インナー....と、セータが入っているのを確認。
カラーはコムサモードっぽく、しかしロゴに「ユニクロ」と書いてあるので
まぁ、ユニクロだろう。
この時すでに電車に乗って約10分。
ちらちら中身を確認しては、心の中の正義が自分に語るのだ...
「コレ、いるの?」
「駅について、届けてやろうよ」
「持ち主、きっとワクワクして帰っていたんだろ~な~」
うぅ...
そんな言葉を聞きながら、そっと、そしてそっと、又中身をちらちら見て
今度は悪がささやく
「最近、服買ってないな~」
「今着る服全然なかったじゃん」
「...もらえば?」
...何て、良い言葉。
「セータが入っている見たいだぜ!?」
「ラッキー♪」
「カラーの好みはあってるな~...」
最低でも10枚は確認出来た。
ザッと見積もって、絶対に万は超えていると確信した。
数日前に、「そろそろ服が欲しいな~」などと思っていた自分には、
なんて ベストタイミング な朗報であろうか!
しかし、しかしだ。善は語る。再度...
「これ、忘れた人ショック受けてるだろうよ?」
そして...
「人が選んだ服なんだぜ~?」
「誰かのセンスの服がいるの?」
「知らない人間がチョイスした服なんてやじゃない?」
「好み合わないって...」
「置いていけば?清掃の人が見つけてくれる...それだけだよ」
正義の言葉が、だんだんと相手の立場より手前都合に変わり始めていた。
そんな格闘を道中ずっとしていたせいか、
あっという間の電車移動が終わりを告げ、
約15分間の議論は結局決着が付かず、僕はその袋を持って電車を降りた。
どっち付かずのまま歩く改札口までの距離『約100歩』。
「ココが最後の選択の道だ」
そう思い、白い大きな袋を持ち上げた瞬間...
...何やら底の方に見える中の値札があるのに気が付いた。
良く目を凝らし、そこに書いてある物をじっと見る...
「なになに....」
...ユニクロ
...紳士服
....サイズ
......XL
....XL!!?
そして、
僕は帰ってきた電車に直ぐに乗り直し、
駅員さんに渡したのだ。
「これ、座席に落ちてありましたよ。届けてくださいね。」
あぁ、善行ってなんて素晴らしいのか。
ち・な・み・に。
届けたからって、僕の名前なんかは明かしてません。
落とした方へは、
「ちゃんと届いていると良いな~」って思ってます。
では。
[ややもすれば偽善者になってしまう話]でした。